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仙台高等裁判所 昭和57年(ネ)520号 判決

控訴人

株式会社オリエントフアイナンス

右代表者

阿部喜夫

右訴訟代理人支配人

相沢陽悦

秋田均

野呂信男

右訴訟代理人

渡部修

被控訴人

伊藤三郎

主文

本件控訴を却下する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し六二万七三〇〇円及びこれに対する昭和五七年三月二〇日から完済まで日歩八銭の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張は原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

証拠関係〈省略〉

理由

本件控訴状の記載によれば、本件控訴は控訴人代理人支配人相沢陽悦によつて提起されたものである。記録中のいわゆる資格証明によれば、相沢陽悦は控訴人仙台支店の支配人として登記されていることが認められる。

当裁判所に係属する当庁昭和五八年(ネ)第一二四号事件の審理(証人布野邦彦の証言)により次の事実が当裁判所に職務上顕著である。

控訴人東京本社は直轄機関として仙台に控訴人東北地区本部が置かれており、右地区本部は東北六県にある控訴人の七支店及び一一営業所の業務を統括しているが、営業店ではない。右地区本部には本部長、副本部長が置かれ、その下に管理課、営業課、事務課及び総務課があり、相沢陽悦は昭和五四年一月一二日から管理課長の職にある。管理課長の主な職務は、債権回収業務について東北地区の支店及び営業所を監督指導すること及び各支店等の与信枠を超える額の契約について審査することにある。

商法第三七条以下に規定される支配人とは営業主により本店又は支店の営業の主任者として選任された商業使用人をいうものである。支店の場合は支店長のみがこれに当り、支店次長も支店長代理も支配人すなわち営業の主任者ではない。まして、支店長の下にある部課長は支配人ではありえない。控訴人東北地区本部は東北六県の支店・営業所を統括する機関で、営業店ではないから、右地区本部が商法上の「支店」といいうるかは疑問の存するところであるけれども、仮に支店といえるとした場合、地区本部長は支配人に該当するといえようが、その下にある一課長は決して支配人であるとはいえない。右課長は、営業全般の包括的代理権を有する支配人とは異なり、支配人の下にあつて営業の一部門の代理権を有する商業使用人で、商法第三八条第二項に規定される「番頭」に該当する。したがつて、東北地区本部の管理課長である相沢陽悦は支配人ではない。

支配人は裁判上代理権を有するものであるけれども、実質上支配人でない者を支配人として登記しても、その者が支配人として裁判上代理権を有することにはならない。控訴人が相沢陽悦を支配人として登記したのは、支配人が裁判上代理権を有することに目をつけて、実質上支配人でない者を支配人として登記して裁判上の行為をなさしめることを目的としたもので、民事訴訟法第七九条の制限を潜脱する違法行為である。

以上の次第で、本件控訴は裁判上代理権のない者が提起した不適法な控訴でその欠缺を補正することができないものであるから、これを却下することとし、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(佐藤幸太郎 石川良雄 宮村素之)

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